オフィススウィング ブログオフィススウィング代表 山口成子

川端康成「雪国」の文体模写を朗読したら

朗読教材用の作品探しをしていて、ふと思い出しました。

和田誠さん(グラフィックデザイナー/イラストレーター/エッセイスト=1936~2019)の文体模写。川端康成の「雪国」の冒頭を、○○が書いたとしたら~と、いろんな作家の文体を真似て書き分けたものです。これを朗読するのは面白そう。

今なら、ChatGPTなどAIを利用してあっという間に文体変換できるのでしょうが、はて、そのセンスは?

和田誠さんが「話の特集1970年2月号」に書いたのは55年も前のこと。これが『雪国』文体模写シリーズとなり、2017年出版の『もう一度倫敦巴里(ロンドン・パリ)』(ナナクロ社)には、44名もの作家たちの『雪国』文体模写が載っていて実に興味深いのです。四つだけ一部を引用しますが、スペースの関係上、改行を省略しているところがあります。

川端康成 原文

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。

向側の座席から女が立って来て、島村の前のガラス窓を落とした。雪の冷気が流れこんだ。

たとえば、野坂昭如が書いたとしたら

国境の長いトンネル抜ければまごう方なきそこは雪国。夜の底白くなり、信号所に汽車が止まると向側の座席から一人の女立ち上がり、あれよと見守るうち、島村の前のガラス窓落としたから雪の冷気いやがうえにも流れこむ。

司馬遼太郎が書いたとしたら

島村を乗せた汽車がトンネルを出たのは七時四十分である。そこは雪国であった。 トンネルは群馬と新潟の県境にある。大正十一年から昭和六年にかけて作られた。長さは九七〇二メートルある。 (夜の底が白くなった)と、島村には感じられる。信号所に汽車が止まった。婦人が立ち上がって、窓を開けた。 島村は、途上、窓ガラスに映る婦人の横顔を観察している。――うつくしい。と、その時おもった。

村上春樹が書いたとしたら

昔々、といってもせいぜい五十年ぐらい前のことなのだけれど、そのとき僕はC62型機関車が引く特急の座席に坐っていた。とびっきり寒い冬の夜だった。機関車は逆転KO勝ちを決めようとするヘヴィー級ボクサーのようにスピードを上げ、国境のトンネルをくぐり抜けた。やれやれまた雪国か、と僕は思った。 一日がガラス瓶だとすれば、底の方に僕たちはいた。果てしなく白い底だ。

俵万智が書いたとしたら

雪国に向かう列車に乗ったから我は演歌のヒロインとなる

トンネルを抜けるとそこは北の国みな雪であるみな白である

夜の底白くなりゆく信号所列車がとまる時間もとまる

ガラス窓落とせば冷気流れこむ なんてたってここは雪国

これらを朗読教材にして参加者と語り合いながらレッスンしたら、様々な角度からの学びが得られるのでは、と考えています。

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※『もう一度倫敦巴里(ロンドン・パリ)』(ナナクロ社)には、イソップの寓話「兎と亀」をテーマに、もし黒澤明が、山田洋次が、フェリーニが、ヒッチコックが、ゴダールが映画を作ったとしたら・・・など、読み応え、見ごたえのあるパロディがいっぱいです。ただ、書店では手に入らないのが残念。